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街達



お年寄りの過酷な現状を目の当たりにして...

鹿沼市千渡にあるグループホーム無量荘は、一見すると老人介護施設には見えない様相をしている。一般住民のアパートのような造りとも言えるその建物には、地域住民やボランティア、スタッフなどの意見が集約され、4年という長い年月を経て建てられたものだ。玄関を入ってすぐに、広々としたシステムキッチンが広がり、まるで誰かのお宅に招かれたような印象を受ける。 「部屋の壁紙、同じように見えるかもしれませんが、全て模様は違うんですよ。単調な白い壁紙一色だと、施設や病院のような雰囲気になって、入居された方に緊張感を与えてしまうのではないか...と思いまして。」
壁紙一枚、床板一枚、個人の意見で選んだものは一つもないという。無量荘ホーム長であり、NPO法人福聚会理事、栃木県高齢者小規模ケアネットワーク顧問でもある青田さん。元々は、同じく鹿沼の板荷の町にある観音寺の副住職だった。印刷業界でも11年間、サラリーマンとして勤務した経験もある。
「父親の手伝いで檀家さんを回っていた際、お年寄りの直面している現状を目の当たりにしたのが、福祉の仕事を始める最初のきっかけでした。」
「元気だと思っていた方が、骨折して家にこもっていると数ヶ月後に葬式の知らせが来たり...また山間地域だと若い人は働きに出て、お年寄りが一人で家に寝かされている場合も少なくない。その問題を突きつけられた時、地元のために何か出来ないかな...と思いました。」
まず手始めに、脱サラで宅老所をスタート。地元の有志が手伝ってくれて、初期の段階は4名のスタッフで運営した。理想の福祉とは、希望を与えられる福祉とは何か...最初はなかなか理解されないことも多かった。
施設をスタートした頃、行政からのある指導が入った。

〈拘束禁止〉

「最初、何のことかさっぱり分からなかったです。拘束ってつまり...、鍵をかけたり手足の自由を効かなくして行う介護なんですよね。自由を奪うような介護が、一方で当たり前に行われていたんです。そんなことは考えも及ばなかった。うちは認知症の方ばかりですが、部屋に鍵もかけない。それも当たり前だと思っています。」
お年寄りは、人生の先輩として敬うべき。それが青田さんの基礎理念だ。
「人間社会の秩序っていうか、歳を取ったら敬われるべきだろうと僕は思うんです。体が不自由になったり認知症になったとしても、軽んじるなんてことは、人間社会としては恥ずかしいことだと思うんです。」

理想の福祉施設とは、何か

建物一つ、部屋一つ造るにも徹底してこだわった努力の結晶が、この無量荘にはたくさん息づいている。一般の施設は、施設オーナーとコンサルタントの話し合いの元、形となるのが常であるが、無量荘は全く真逆の方法論を取った形となった。
「高齢者福祉施設の外観自体も、けっこう地域や町並みとマッチングしていないことが多いな、というのが各所を見て回った感想でした。お年寄りがいったい何を望んでいるのか、一つ一つ検証したかったんです。」
そこで青田さんたちが取った方法が、映画上映会や講演会、シンポジウムを開く中でアンケートを取り、『理想の老後』を徹底リサーチすることだった。住所を記入してもらった場合はダイレクトメールで、実際に活動に参加してもらえるよう呼びかけた。
「毎月そんな会合を行って合計で約50回、4年かかりました。他の施設も見学して、行政とのやり取りにも加わってもらって、結果、どこにも個人的意見で決めない、みんなの理想の施設が出来上がったと自負しています。」

「五感」で感じられるサービスを

「鍵なんかかける必要がないのも、職員の心遣いが隙間無く行き届いている結果でしょうか。各月のリーダー会など、職員同士、利用者の方には決して分からない場面で互いを指摘し合うことがあります。忘れだったり漏れだったりの事柄ですが、私も未だに注意されます(笑)。それから利用者の方ももちろんそうですが、職員も幸せを感じられるような職場でないといけません。全員参加型のスタイルですから、皆さん意欲的に、ただ決して無理強いすることなく、自宅にいるような自然な雰囲気作りに尽力してくれています。」
スタッフへの指導として、『決して走らない』というルールがある。せかせかと日常動き回っていれば不安を与えてしまうため、自宅にいる時のように安心して過ごして頂きたいという心遣いからだ。
「認知症は言葉では理解してもらえません。だからこそ、自由に楽しく振る舞える雰囲気が大事じゃないのかなと思うんです。言うなれば『五感』で感じてもらえるような、より繊細なサービス精神が必要になってくるはずなんですね。」

自分のペースで、自宅にいるような雰囲気で

青田さんには忘れられないエピソードがある。
「以前、走りだった宅老所をやっていた時のことです。認知症で徘徊のひどい女性がおられました。僕とお話をしていて、10分くらいは会話してくださるんですが、話の途中のふとした瞬間に外に出て行かれてしまう。それなのに、ご利用1ヶ月で徘徊がパタっと無くなったんです。その方は、人との視線が外れた瞬間に、外に出て行かれることが分かったんですね。そこで付き添いのスタッフが本当に一日中、ずっと目線をはずさずに介護をしたんです。その忍耐力には、学ばされました。」
人と人が関わる仕事こそ、時間から時間までというスタイルでは確立せず、達成感も感じられない。人が相手の仕事だからこそ、ここまでという限界もないはず。性格も体力も、病も違い、その日においては体調も違う。無量荘では、全員参加型のメニューを行ったりはしていない。この決断も、幼稚園にいるような集団的なケアに反発を覚えた青田さんたちが、当初から貫いている点だ。ご利用者のその日の気分や体調に応じて、散歩に行きたい、花見に行きたい、買い物に行きたい等、ご要望を都度聞く。気分が乗らなければ一日中、施設の中で過ごすことも可能だ。
「基本は何でも、ご自宅ベースで考えていますから、不自然なカリキュラムを無理強いしたくはないんです。それから、家にいるのと同じように出来る範囲でのお掃除もして頂いています。生活の中での自分の役割、存在価値をもって頂くことがとても大事だと思うからです。どの部屋に入っても、掃除も行き届いていますし、臭いもないはずです。」
本来は「福祉」という言葉自体、無くなることが理想という青田さん。職員の何人かは市民活動にも参加しており、一人一人が単なる福祉専門職員としてだけではなく、ボランティア活動などを通して地域作りに、志し高く励んでいる。
「『残念ながらご自宅での介護が難しく、施設に頼らざるを得なかった場合』に、こういった施設をご利用いただきたい、それが福祉だと、僕は思っています。」


2010.4.3  聞き手・文=松島佐和子

Profile

青田 賢之さん福祉サービスの未来を照らす先駆者
1959年鹿沼市に寺院子弟として生まれる。宗派本山勤務2年、印刷会社勤務11年を経て、1996年に宅老所「無量荘」開所。
介護支援専門員として現在に至る。
(現職)福聚会 無量荘グループ代表。グループホーム無量荘ホーム長。NPO法人福聚会理事、栃木県高齢者小規模ケアネットワーク顧問、認知症介護指導者、かぬま市民活動広場

無量荘への連絡はこちらから。 電話:0289-60-0766 (グループホーム 無量荘)